2017年11月27日月曜日

殺意の有無

《遺族 厳罰の声強く》「殺意の有無」判断が鍵
〈琉球新報2017年11月25日 28面〉

米軍属女性暴行殺人事件で検察側は、犯行が極めて残酷で謝罪や反省もないなどとして「死刑検討に値する事案」としながらも無期懲役を求刑した。一方で被害者の父親は死刑を求めるなど遺族の悲痛さや処罰感情の強さが改めて浮き彫りになった。
検察側が死刑に言及しながらも無期懲役の求刑にとどまったのは過去の最高裁判決が背景にある。
1983年に最高裁が示した死刑適用の「永山基準」は、犯行の性質や殺害された人数など結果の重大性、犯行後の情状など九つの条件で考慮されるとされる。中でも被害者の数が大きな要素を示す判決となっている。
2009年に発生した「千葉大生殺害事件」でも被害者が女性1人で裁判員裁判は死刑判決だったが、2審の高裁は破棄して無期懲役とし最高裁で確定した。今回の事件では被告の一部自供や前科がないことも求刑の判断材料になったとみられる。
一方で弁護側は殺人罪は成立しないと反論。有期刑を求めたが、被告は公判で殺意否定の事情を自ら語ることはなかった。被害者の死因が不明の中、裁判員は殺意の有無を判断する。被告が供述した暴行の行為について、命を奪う危険性が高かったかどうかが判決の鍵を握る。

【争点】検察側「殺意は明らか」弁護側「危険認識なし」
検察側はケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告が女性を襲う目的で打撃棒などの凶器を準備していることから、「計画的犯行」と指摘。後頭部を殴る、首を絞める、ナイフで首の後ろ付近を刺すなどの一連の行為について、死亡する危険性が高いと認識しながら繰り返しており「殺意が傷に認められる」として、殺人罪が成立すると主張した。
また、逮捕前に遺棄現場を自供したこと、日本での前科がないことを「有利に考慮すべき事情」としながらも、被告が公判中に真相を明らかにせず事件と向き合う意思が認められないこと、遺族の処罰感情が極めて強いことなど挙げて「社会にでてくる有期懲役は不相当」と結論付け、無期懲役を求刑した。
一方、弁護側は乱暴については相応の計画性を認めつつ「計画自体は犯罪ではなく、行われた犯行自体が量刑上重要」と主張。打撃棒での殴打や首を絞める行為などについては、乱暴目的で気絶させるための手段であり、被告が「死亡の危険性の高い行為とは認識していない」と述べた。
ナイフで刺す悔いが行われたのは遺棄現場のみで、暴行現場での同様行為は認められないとも指摘したうえで、暴行現場で被告が被害者を抱きかかえ倒れこんだ際、被害者が頭部を強打したことによって死亡した可能性を排除できないとした。
また、遺棄現場の自供や前科がないことで情状の考慮を求め、事実認定や量刑において「黙秘権行使自体を不利に判断することは違法」と付け加えた。

《被告 沈黙破り釈明》女性暴行殺人論告求刑『悪い人間ではない』
【父親陳述には苦い表情】
「私は本来悪い人間ではない」。米軍属女性暴行殺人事件の公判でこれまで沈黙を貫いてきたケネス・フランクリン・シンザト被告(33)。裁判長から発言の機会を与えられ、最後に述べたのは釈明の言葉だった。法廷内の全ての視線がケネス被告に注がれた。法廷で怒りをぶつけ涙した被害者の遺族とは対照的に淡々と語る様子に、裁判員や傍聴人の多くが息をのんだ。

那覇地裁で24日に開かれたケネス被告の裁判員裁判論告求刑公判。ケネス被告は白いTシャツ、紺色のズボン姿で頬づえを突き、左耳のイヤホンから通訳を通し求刑を聞いた。検察側が論告を述べている間、眉間にしわを寄せながら耳を傾けていた。
検察側から無期懲役を求刑された際は、身動きせず通訳担当者を見つめたままだった。一方、「被告人には死刑を望む」と被害者の父親の陳述を代理人が読み上げると、唇をかみ苦い表情を見せた。
発言の機会を与えられると、ゆっくりとマイクに顔を近づけ「このようなことになったのは、意図したことではなかった」と述べ、下を向いた。声は小さく、通訳担当者が聞き返す場面もあった。被害者の両親は黙って被告を見ていた。
愛情をたっぷり注いで育てた娘を突然失った両親。「娘の魂を成仏させてあげたい思い」(父親の陳述)で裁判に臨んだ。「いとしい、尊い娘の命を残虐な行為で奪った被告人には命をかけて償ってほしい」。代理人の父親陳述の読み上げる声に、両親は目を赤くした。
結審後、法廷内にいた全員が席を立つ中、ケネス被告だけが座ったまま、被害者の父親が座る検察側の方向に目を向け、何か言いたげに見続けていたが、拘置所職員に促され、唇をかみながら立ち上がり、法廷を後にした。

【公平な裁判を】弁護人、黙秘の正当性主張
論告求刑公判を終えたケネス被告の主任弁護人の高江洲歳満弁護士は、米軍基地問題とは切り離して「日本人に対する裁判と同じように公平な判断を望む」と述べた。

黙秘権行使は「全て被告の意思。この事件を政治的に利用していないかとの疑いが、そうさせたのだろう」と推察した上で「黙秘権は憲法に由来する権利だ」と正当性を強調した。殺意の有無が争点になっていることについては「殺していなければ認定の必要もない」とし、殺人罪を判断できる証拠はないと主張した。

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