2017年11月16日木曜日

米軍属女性暴行殺人事件公判

【きょう初公判】米軍属殺人 〈琉球新報1面 2017年11月16日〉

2016年4月に発生した米軍属女性暴行殺人事件で、殺人や強姦致死などの罪で起訴された元米海兵隊員で事件当時軍属のケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告(33)の裁判員裁判が16日、那覇地裁(柴田寿宏裁判長)で始まる。
復帰45年を経過した今も変わらず米軍基地が集中する沖縄では、米軍関係者による事件事故が繰り返されてきた。再び起きた残忍な事件に対し、県民がどう判断するのかが注目される。

被告側は罪状のうち強姦致死と死体遺棄の両罪は認める一方、「殺意はなかった。殺す計画もなかった」として殺人罪は否認する方針だ。争点は殺意の成否と量刑の2点となる。
起訴状などによるとケネス被告は16年4月28日午後10時頃、うるま市内の路上でウォーキング中の女性の頭部を棒で殴った上、両手で首を絞めたり首付近をナイフで数回突き刺したりした。
乱暴目的で犯行に及んだが未遂に終わり、一連の暴行で女性を死亡させたとされる。
公判は被害者参加制度で被害者の父親が立ち会い、初日に続いて17日に被告人質問などがある。24日に検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論を経て結審し、判決は12月1日に言い渡される。


【米軍属女性暴行殺人事件・きょう初公判】

『身分明確化補足協定「軍属減少数 通知なし」』〈琉球新報2面2017年11月16日〉


16日に初公判を迎える米軍属女性暴行殺人事件を契機に日米両政府は今年1月、日米地位協定で身分が保障される軍属の範囲を明確化する「補足協定」を締結した。
政府は協定締結を「画期的」として、犯罪抑止効果が全軍人に及ぶとの主張も展開してきた。ただ、締結から10ヵ月となるが米側から軍属の減少数の通知はない。政府の主張する犯罪抑止効果がどれだけあるのか、疑問符が付く状況が続いている。

補足協定は1月16日に締結され、同日の日米合同委員会合意で軍属の対象が詳細に定義つけられ、契約業者の従業員や米政府予算で雇用される者など8項目に分類された。
そのうち事件の被告と同様の契約業者の従業員については米軍の任務に不可欠かなど適格性の基準のが細分化された。
米側は「軍属」の適格性基準の見直しの進展状況を6ヵ月ごとに、最終的な結果を2年以内に報告することになっている。7月31日に外務省に初めての報告があった。
外務省によると米側からは 「問題のある契約業者の従業員はいなかった」としており、地位協定違反や軍属の要件を満たしていない人は確認されなかったという。だが、それ以外の内容については、米側からの報告者として詳細は明らかにしなかった。
政府は当初、軍属の対象明確化で軍属の人数が「減る」ことをに前面に打ち出していた 。ただ補足協定締結が近づくにつれてトーンダウンし、締結後は未だ米軍からの人数の報告はない。締結時に在日米軍の軍属は2016年末で約7300人、うち契約業者が約2300人と公開されただけだ。現状では犯罪抑止効果の検証もできない。補足協定締結の効果は事件の被告から「軍属」の肩書きを外しただけとなっている。


【青色灯車巡回】通報、米軍関係は3件



米軍族女性暴行殺人事件を受け政府は犯罪防止対策を講じた。昨年6月から沖縄・地域安全パトロール隊を創設し、青色灯をつけた車両100台体制で本当全域の見回りを続ける。不審者情報などを警察へ通報しているが、昨年6月から今年10月までの通報件数426件のうち 米軍関係者に関するものは3件だった。対策では防犯灯・カメラ設置の費用も県内41市町村全てに交付し 整備が進められている。パトロールを実施する沖縄総合事務局の安心・安全対策推進官室は「目的は犯罪抑止でことが起こらないために何ができるかを重要視している。一定の効果は上がっている」と説明している。
青色灯パトロールは昨年6月15日に当初は20台で夜間巡回をスタート。12月には100台体制に整え、深夜から未明の時間帯にも見回りを拡大し、北部全域を含めて巡回している。
青色灯車巡回による昨年度の通報は48件で、そのうち職務質問で米軍関係者と判明したのは2件で物損事故とケンカの一件ずつ。本年度は10月末までの通報378件のうち309件が泥酔者の路上寝込みで、米軍関係者は路上寝込みの一件だけだった。


【被告黙秘 法廷解明へ】きょう初公判『遺族、心癒えぬまま』米軍属女性暴行殺人事件〈琉球新報31面 2017年11月16日〉



県民に大きな衝撃を与えた米軍属女性暴行殺人事件の裁判員裁判が16日から那覇地裁で始まる。殺人や強姦致死などの罪に問われている元米海兵隊員で事件当時軍属のケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告(33)は逮捕直後から供述拒否に転じており、公判で事件の全容が明らかになるかに注目が集まる。遺族は心の傷が癒えぬまま公判を迎える。捜査に直接影響はなかったとされるが、米軍基地内に証拠品を投棄するなど日米地位協定が捜査の足かせとなる可能性もあり、県民から地域協定改定を求める声も上がった。


《事件の経過》

起訴状によると事件は昨年4月28日午後10時頃発生したが、殺人事件とわかったのは女性の遺体が見つかりケネス被告が死体遺棄容疑で逮捕された5月19にちになってからだった。
女性は4月28日にウォーキングに出た後、行方不明になった。捜査が大きく動いたのは5月16日。 現場付近の防犯カメラに映っていた通行車両の所有者を当たっていた捜査官が、現場周辺を Yナンバー車両で行き来していたケネス被告と接触した 。
ケネス被告は関与を否認したが震えるような動揺した様子を示し、任意の聴取後には睡眠剤を過剰に摂取し緊急搬送された。
5月19日、ケネス被告が女性を刺したことなどを自供し、案内した恩納村の道路脇で女性の遺体が見つかった。県警は死体遺棄容疑で逮捕したが、ケネス被告は逮捕直後から供述拒否に転じ、 殺人や強姦致死の容疑で6月9日に再逮捕された後も黙秘を続けた。そのため、詳細な動悸やなぜ被害者を選んで襲ったのかなど、内面的な部分は明らかになっていない。
県警は逮捕前後の供述をもとに、うるま市州崎の水路から女性のかぎや犯行に使用された打撃棒を発見したが 、女性のスマートフォンやナイフは見つかっていない。キャンプハンセン内の処分場にスーツケースを捨てたという供述から、基地内のゴミが集まる最終処分場で大型の黒いスーツケース数点を回収したが事件発生から時間が経過しており犯行に使われたという断定はできていない。他の証拠品を一緒に捨てなかった理由は分かっていない。
米軍の準機関紙「星条旗」は2017年2月、ケネス被告の見解を報じた。同紙によると被害女性に責任があるかのような認識を示し、強姦罪が親告罪で通報率も低いことなどから「逮捕されることは心配していなかった」などとしている。


【精神鑑定検討、裁判担当者変更・・・】『起訴から1年4ヶ月』

《公判開始遅れ》


殺人や強姦致死などの罪で昨年6月30日に起訴され、1年4ヶ月余りが経過したケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告の初公判 。ケネス被告の弁護士による精神鑑定検討や裁判長、担当検事の交代などで公判開始が遅れた。
ケネス被告の弁護人は2016年9月の公判前整理手続きで被告の精神鑑定を申請する方針を示した。 結果的には鑑定は見送ったが米国の病院に海兵隊入隊以前のうつ病の投薬治療に関する記録の提供を依頼するなど資料収集などに時間を要した。
17年5月には裁判長が健康上の理由で公判前整理手続きを開けず、その後に交代。担当検事も交代したことで証拠や争点整理などが再検討されたとみられる。そのほか被告から「予断に満ちている。沖縄の人の裁判を受けたくない」との申し出があったとして弁護人が7月に裁判の管轄を東京地裁へ移転することを那覇地裁に請求。審議した最高裁は8月に請求棄却を決定するなどの手続きもあり協議の進進行に影響した。


《県民の反応》怒りの大会開催 政府対応に批判


事件を受け、県民の間には大きな怒りが渦巻いた。2016年6月19日には被害者を追悼し在沖海兵隊の撤退を求める県民大会が那覇市で開かれた。集まった65000人は「怒りは限界を超えた」と書かれたプラカードを掲げた。同年5月26日、県議会は遺族への謝罪と完全な補償、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設断念や 初めて在沖米海兵隊の撤退も求めた抗議決議と意見書を全会一致で可決した。
県民の怒りを受け、日本政府は再発防止策として「沖縄・地域安全パトロール隊」を創設。同年6月15日から、沖縄総合事務局や沖縄防衛局の職員だが青色回転灯をつけた車で夜間の巡回を始めた。県警の警察官を100人増員し、防犯カメラ設置のための予算交付も決めた。16年7月5日、日米両政府は軍属の適用範囲縮小に合意し、17年1月16日に補足協定を締結。しかし、軍属から除外される人数が不明で犯罪抑止に繋がるのかが不透明な内容に、県内からは「小手先の対応だ」と批判の声があがった。


《悲しみ消えない》献花絶えぬ遺棄現場


未来への希望あふれる20歳の娘の命を突然、奪われた被害女性の遺族。手を合わせ供養する毎日が続く中、怒りと喪失感を抱えたまま公判に臨む。「娘を失った悲しみは消えない」女性の父親は事件発生から1年の節目に寄せた報道機関への手記で 心境を語っている。女性が遺棄された恩納村安富祖の現場は事件発生から1年半になるも今も献花に訪れる人が絶えない。
遺体発見現場は山道の県道104号線を海沿いの国道58号線から金武町向けに車で2~3分上がった場所の雑木林。交通量は少なく、虫や鳥の鳴き声が辺りを包む。献花台には、ここ数日のうちに供えられたとみられる色鮮やかな花や飲み物が並び、近くの木には女性の冥福を祈る千羽鶴がつるされていた。

被害女性の父親は、手記の中で 「私たち遺族は被告人を許すことはできない」などと悲痛な思いを綴っている。遺族は今回の裁判にあたり「気持ちを整理することで精一杯な状況」と代理人を通じて発表し、報道陣に対して個別取材や声かけなどを控えるを申し入れた。遺族の感情は未だ揺れ続けたままだ。

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