2017年11月21日火曜日

日本版トマホーク

《日本版トマホーク開発へ》
【政府検討 対地・対艦ミサイル】〈読売新聞2017年11月20日 1面〉

政府は、地上の目標を攻撃できる巡航ミサイルを開発する方向で検討に入った。防衛省が2018年度から研究を始める予定の対艦ミサイルに対地攻撃能力の付加を計画してるもので、日本が対地巡航ミサイルを本格的に開発するのは初めてとなる。敵に占領された離島の奪還が主目的だが、敵基地攻撃も性能上は可能で、北朝鮮への抑止力向上にもつながる見通しだ。

巡航ミサイルは搭載したレーダーのなどによって攻撃目標に向かう精密誘導兵器で、弾道ミサイルが放物線を描いて上空から飛来するのに対し、飛行機のように翼とジェットエンジンで水平思考する。米国のトマホークとの共通点が多いことから、防衛省内では開発するミサイルを「日本版トマホーク」と位置付けている。
18年度予算の概算要求では「島嶼防衛用新対艦誘導弾」の研究費77億円を計上。新型対艦ミサイルの研究開始として公表しているが、技術的に共通点が多い対地ミサイルの機能を持たせる方向で検討を進める。22年度に試作品の完成を目指す。
計画段階では射程は300 km 以上で、専用車両や護衛艦、P1哨戒機、戦闘機などから発射可能にする。全地球測位システム(GPS) などを利用しながら低空で飛行し、目標直前で搭載したレーダーに切り替え、破壊する方式を想定。ステルス機能を高めた形状とし、米国のトマホークより敵のレーダー網をかいくぐりやすくするほか、飛行途中で進路を変えるなど、より迎撃されにくくなる機能も検討する。
政府が対地と対艦を兼ねる巡航ミサイル開発を検討するのは、中国軍が海洋進出と装備の近代化を同時並行で進めていることへの危機感からだ。ミサイルが実戦配備されれば、離島に接近する艦船や、上陸した地上部隊への攻撃能力が大幅に向上する。ミサイルを搭載する艦船や航空機を敵地近くに展開すれば、敵基地攻撃での利用も可能となる。
ただ、政府は敵基地攻撃能力について、憲法上認められているが、専守防衛の観点から政策判断として保有しないとの立場だ。政府・自民党内には北朝鮮情勢を踏まえ、敵基地攻撃能力の保有を求める意見もあるが、まずは離島防衛に主眼を置いて開発を進める構えだ。日本が過去に開発した巡航ミサイルに分類できる装備は対艦用としてのもので、車両発射型の88式地対艦誘導弾や、これを改良した90式艦対艦誘導弾や93式空対艦誘導弾などがある。

【「敵基地攻撃」慎重に議論】政府 防衛大綱見直しに合わせ
「日本版トマホーク」
政府は、対地攻撃能力を持つ巡航ミサイルの開発に向けた向けた検討に入ったが、性能上は可能となる敵基地攻撃能力の保有については、来年末に見込まれる「防衛計画大綱の見直し」に合わせ、慎重に議論を進める方針だ。

防衛省が「日本版トマホーク」と位置付ける対地攻撃能力を持つ巡航ミサイルが配備されれば、離島防衛能力の強化につながる。航空自衛隊に配備予定の最新鋭ステルス戦闘機「F35」にも、同じ目的でノルウェーが主体となって開発中の別の空対地ミサイル導入を検討している。
もっとも、対地ミサイルは敵基地攻撃能力に直結する装備だ。政府は敵基地攻撃能力について、憲法上認められているものの、専守防衛の観点から政策判断として保有しないとの立場をとっているが、「対地ミサイルの開発や導入をするならば、敵基地攻撃の議論は避けては通れない」(防衛省幹部)との見方がある。
政府内に敵基地攻撃能力保有を求める意見は根強くあるのは、北朝鮮が多数のミサイルを同 時着弾させる「飽和攻撃」を仕掛けた場合、全てを迎撃するのは困難とみられているためだ。外務省幹部は「発射前にミサイル基地や移動式発射台を叩く能力を持てば、抑止力は格段に上がる」と説明する。
一方、安倍首相が目指す憲法改正が敵基地攻撃能力の議論に影響するとの見方もある。自民党は憲法への自衛隊の明記を衆院選公約で掲げており、「憲法改正と敵基地攻撃能力保有の『二兎』を追えば、野党から『自衛隊に戦争させるのか』との批判を招き、両方失敗しかない」(政府関係者)というわけだ。
実際、首相は今年8月、敵基地攻撃能力の保有について「現時点で具体的な検討を行う予定はない」と慎重な見方を示した。憲法改正論議と防衛大綱見直しの検討の時期が重なるため、政府内には「二者択一なら首相は憲法改正を優先する」(国家安全保障局幹部)と見る向きもある。
仮に敵基地攻撃能力を保有する政策判断に舵を切っても、対地ミサイルだけでは不十分で、目標を探す人工衛星や偵察機などの装備体系全体の拡充が伴う。防衛予算全体の底上げに向けた議論も必要になりそうだ。

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