2017年12月18日月曜日

《軍属定義 NATOは厳格》地位協定上の特権温存【駐留の実像】

《軍属定義 NATOは厳格》地位協定上の特権温存【駐留の実像】
〈琉球新報2017年12月17日 2面〉


2016年4月28日午後10時ごろ、元米海兵隊員で米軍属の男が乱暴目的でうるま市内の路上
で20歳の女性の頭部を打撃棒で殴った上で殺害した。容疑者が逮捕されたわずか5日後の
16年5月25日、三重県で開かれた日米首脳会談でオバマ米大統領(当時)は、事件への
「お悔やみと遺憾の意」を表したが、その後の記者会見では「地位協定があるからといっ
て、しかるべき訴追が妨げられているわけではない」と述べた。この2日前には翁長雄志
知事が抗議の場で安倍晋三首相に日米地位協定の「抜本改定」を迫ったが、首相も改定に
消極的な姿勢を示していた。
その後に日米間で合意されたのは地位協定本体の改定ではなく、地位協定を「補足」する
協定の締結だった。日米地位協定を適用して”特権”を認める米軍属の範囲を見直す内容だ。
ケネディ駐日米大使(当時)との補足協定署名式に臨んだ岸田文雄外相(同)は「これま
での『運用改善』とは一線を画する」と述べ、補足協定の意義を強調した。
だが肝心の中身には県内から不満が渦巻いた。日米地位協定が適用されるオキナワの米軍
関係者は5万人。うち軍属は4%弱の2千人程度だ。補足協定はその2千人のさらに一部を
「軍属」の定義から外し、地位協定を適用しないという内容だ。つまり、約5万人の大部分
は、なお地位協定で「特権」が保障される。この見直しで地位協定の適用から外れる軍属
が何人いるのか、具体的な数も明らかにされていない。
「県が求めているのは地位協定の抜本改正で、対象は基本的に全ての米軍関係者だ。米軍
関係者の『一部の一部』を除外しても、事件事故の問題は解決しない。尻尾切りではない
か」(県幹部)。県庁内では締結直後から、冷めた見方が広がっていた。
実際、これまで発生した米軍関係者による事件事故は、多くが軍属ではなく「軍人」によ
るものだ。その軍人に関する「身柄引き渡し問題」や「不起訴密約」による一次裁判権の
放棄といった問題が指摘され続けてきたが、「軍属補足協定」はこれらの問題を温存した。
一方、事件を受けて日米が合意した軍属の範囲見直しに関しても、他国の地位協定と比較
して不十分だだと指摘されている。
補足協定は軍属の範囲を「再定義」したが、この中では米政府が直接雇用していない「請
負業者(コンストラクター)」も引き続き軍属として扱うこととした。その上で、高度な技
能を持つといった条件に合致しない請負業者は軍属から外れる仕組みだ。
だがNATO地位協定では「軍属」の定義について、米政府が直接雇用するものに限定し、請
負業者は最初から除外している。
外務省が1973年に作成したマニュアル「日米地位協定の考え方」でも、NATO協定による軍
属の範囲は「日米地位協定よりも相当狭くなっている」との認識を吐露している。
14年にアフガニスタンと米国が締結した地位協定も同様に、請負業者は地位協定の対象から
除外している。政府の直接雇用出ない限り、米政府の監督権が及ばないのが実態で、「責任」
の所在なしに特権は認めないという理由からだ。
軍属の範囲見直しについて外務省関係者は、補足協定の交渉の段階から「民間人にも軍事機
密を扱う人間はいる。施設の建設や設計に関わる民間企業も保安などに関係することもある」
などと述べ、請負業者の”完全除外”は困難だとの認識を示していた。

だが地域協定の国際比較に詳しい伊勢崎賢治東京外語大教授は「仮に高度な技術や機密を理
由に米側がどうしても地位協定で守る必要があるのであれば、そのような人間は米政府が自
らの責任で雇用すればいいだけだ。日本側が配慮する必要はない」と指摘する。「米国がよ
そでは認めていることまで日本が自ら譲歩してしまう精神構造こそが、地位協定問題が抱え
る根幹的な病だ」。

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