2017年12月2日土曜日

帰らぬ娘 悲しく深く

《帰らぬ娘 悲しく深く》
『法定に母のおえつ』元軍属に無期懲役「被告、無表情に判決聞く」
〈琉球新報2017年12月2日 29面〉
2016年4月に発生した米軍属女性暴行殺人事件の裁判員裁判で那覇地裁は1日、ケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告(33)に無期懲役の判決を言い渡した。事件について黙秘し続けたケネス被告。真実を語らず、謝罪の言葉もなかった被告に対し、県民からは「反省がない」「米軍基地がある故に起こった事件だ」などと怒りの声が上がった。極刑を求めていた遺族は「私たちは日々悲しみ、苦しみの中にいる。それは生きている限り続くだろう」とやりきれない悲しみを抱え、法廷を後にした。

判決公判の冒頭、裁判長から「その場で起立しなさい」と指示されたケネス被告(33)。「被告人を無期懲役に処する」。裁判長が判決主文を言い渡した瞬間、一報を伝えるために席を立って駆けていく記者らを一瞬を横目で見たケネス被告は、無表情のまま判決の英語通訳を聞いた。裁判で極刑を求めていた被害者の両親は、判決を聞いて目頭を押さえた。
白いTシャツと紺色のズボンで入廷したケネス被告は、裁判長が判決理由を読み上げる約40分の間、深く椅子にもたれ、机の上に左ひじをついて聞いた。
成人式を終えて間もない娘の未来を無残にも奪われた遺族。被告席に座るケネス被告と相対する検察官席側に父親は座っていた。黒いシャツに黒い背広と喪服を着用し、判決を聞くと青いタオルで顔を何度も拭い、鼻を真っ赤にして天井を見上げた。
ケネス被告と向き合う形となった父親は時々、被告に視線を向けてはすぐに目をつぶったり、視線を下に向けたりしていた。傍聴席に座った母親は、判決理由が朗読される間、ピンクのハンカチを握りしめて口元を覆い、何度も涙を拭った。ケネス被告の方向をじっと見つめる場面もあった。
裁判長が「残された両親が、犯人に対して極刑を求めるのは当然」「人の命を大切に思う気持ちが少しでもあれば、途中でやめることができたはず」などと読み上げ、両親がうなずく場面もあった。
被告が法廷から立ち去ると、被害者の母親は両手でハンカチで顔を覆い、こらえきれなくなったように「あぁー」と泣き崩れ、その声が法定内に響いた。閉廷後、母親は付き添う女性らに抱きかかえられるようにして法廷を後にした。

【傍聴席求め長蛇の列】
那覇市の那覇地裁では、抽選券の配布が始まる午後1時10分には長蛇の列ができた。米軍属女性暴行殺人事件の判決公判、小雨が降る中、22の傍聴席を求めて655人が並んだ。倍率は過去3回の公判を大きく上回る約30倍となり、注目の高さをうかがわせた。
千葉県と那覇市の自宅を行き来する伊藤那奈子さん(70)は初めて裁判所に足を運んだ。「本土でも外国人の強盗事件はあるが、女性を暴行して殺す事件は聞かない。米軍基地があるが故の事件だと思う。国会で議論すべきは、こういう問題だ」と強調した。
午後2時半頃の開廷から数分後、テレビのリポーターが裁判所から飛び出してきて、カメラの前で「無期懲役の判決」と伝えた。
元米兵の父を持つ会社員の女性(44)浦添市ーは「軍隊内で教育が行き渡っていない。日本人を同じ人間として見てるか疑問だ」と判決後に話した。

《基地ある故の苦しみ》「もっと厳しく」「妥当」
【遺棄現場、献花絶えず】〈琉球新報2017年12月2日 28面〉
米軍属女性暴行殺人事件で、無期懲役の判決を受けて、被害者の出身地の本島北部や被害者が遺棄された恩納村安富祖の現場では「もっと厳しい判決にすべきだった」という声や「生きて罪を償って欲しい」などの声が上がった。
被害者が育った地元に住み、同じ年頃の娘2人を持つ女性(54)は「遺族の気持ちを考えると、とても残念。親はもっと厳しい判決を望んでいた」と話し、両親の気持ちを推し量った。「基地があるが故の事件であり、若い子が二度と同じようなことに遭わないようにしてほしい」と要望をした。
同じ地域に住む20代前半の娘が2人いる男性(54)は「親の気持ちを考えるといたたまれない事件。死刑を望むのもわかる」とする一方で「妥当な判決だと思う。刑務所に入って生きて罪を償ってほしい」と話した。
「私は死刑を望んでいた」と強い憤りを見せた96歳の女性もいた。「何もやってない女性に対して、何であんな酷いことができるのか。許せない」と話し、無期懲役の判決に納得いかない心境を語った。
恩納村安富祖の現場に設置された祭壇は、訪れた人が手向けた花や飲み物などが今も絶えない。初公判の日も現場を訪れた恩納村の男性(48)は「判決を伝えに来た。基地がある以上、同じような事件や事故が起きる。基地が(沖縄に)あり続けるという状況をなくしてほしい」と語った。
1年に1度、東京から訪れているという男性は「こういう事件が起こると、本土の人間として、(基地)負担を沖縄に強いていると感じる」と話した。

【実現しなかった真相解明】
米軍属女性暴行殺人事件で那覇地裁は被告に無期懲役を言い渡した。米軍基地が集中し米軍関係者の事件事故が繰り返されてきた沖縄で再び起きた残酷な事件の裁判で、県民から選ばれた裁判員は同種事案の量刑傾向を踏まえ、求刑通りの量刑を選んだ。遺族が死刑を求め、県民の反基地感情がどう影響を及ぼすか注目されたが、裁判員は事件そのものに向き合い判決を導き出した。
復帰45年となった今も日米地位協定の抜本改定はかなわず、米軍基地の縮小も進まない。被害者の父親をはじめ多くの県民が「基地がある故」と声をそろえた今回の事件。その中で弁護側は法廷で「裁かれるのは基地でなく被告本人だ」と強調し、裁判員に公正な審理を訴えた。
一方で、被告は公判で黙秘権を行使したため、事件の背景や被告の心情など被害者遺族が求めた真相解明は実現しなかった。
判決は「両親が極刑を求めるのは当然」としながらも「同種事案との公平の観点」から「死刑を科すべき特別な事情はない」と判断した。黙秘への非難も見られなかった。
ただ、被告は強姦致死罪と死体遺棄罪は認めていた。黙秘は被告に認められた権利だが、争いのない点についての説明は可能だったはずだ。語らなかったことが刑罰に反映されたか判決から読み取れないが、事件を語ることから逃げた被告の責任は重い。

【女性の無言の叫びに社会に】
高里鈴代氏(基地軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表)

判決文には両親の思いだけ盛り込まれ、求刑通り無期懲役になったが、第2回公判で「私の心は地獄の中で生きてる」と陳述し、死刑を求めた母親の心中を思うといたたまれない。
弁護側は「被告が米軍人だったことや、米軍基地への不満は忘れてほしい」と主張したが、明らかに間違いだ。事件は米軍基地と深く結びついている。被告は、米海兵隊員として沖縄に配属され、除隊後は米軍属として沖縄の米軍基地に就職した。米軍を通じ、沖縄に入り込むことができた。犯行後は女性の遺体を運んだスーツケースを基地内に捨てるなど、基地を利用し犯行を隠そうとした。
ただ、公判で被告の詳しい身上や動機が明らかにされなかったのは残念だった。
多くの県民が「彼女が私だったかもしれない」と思うほど、普通に幸せに生きている日常が切り裂かれた事件だった。表面化しなくとも、水面下で米軍人からの性暴力に苦しむ女性たちも多い。

私たちは女性たちの無言の叫びを社会に訴え、米軍基地の負担軽減を求め続けていかなければならない。

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